捨てるか・残すか

ケ函206号 廿一口方明応九年中反古之内用捨分文書目録
ケ函206号「廿一口方明応九年中反古之内用捨分文書目録」明応9(1500)年

これは、一旦は捨てようとしたものの、やはり残しておくことにした文書のリストです。一年の間に組織の内で作成される文書、外からやってくる文書をあわせるとたくさんの数になります。それらは全部とっておくわけではなく、のこすものもあれば捨てるものもあります。そのより分けをすることは奉行の仕事の一つでした。上の文書では廿一口方の奉行宗寿がそのより分けをしています。今に伝わっている文書は、実はこのような選択をくぐり抜けて生き残っていたのです。 

ム函77号 惣寺料足借状
ム函77号「惣寺料足借状」明応5(1496)年12月晦日

ム函77号文書は、目録の3行目に見える「鳥養方」の文書の一つで、東寺が借りていた銭23貫文を返済した後、貸主から返却された借用書です。墨で打ち消しているのは、この文書はもはや無効であることの表現です。目録にある文書の多くはこのような借用書や礼状ですが、すこし変わったものもありました。

ケ函204号 伊予法橋英玄・敬宝証玄連署請文
ケ函204号「伊予法橋英玄・敬宝証玄連署請文」明応9(1500)年8月11日

寺外に追放された僧侶敬観が境内や西院付近をうろついていることについて、その父である英玄らが提出した謝罪の文書で、目録の8番目、「英玄・証玄両人敬観カ事ニ付テ請文」にあたります。

ケ函206号の目録に記載された計24通のうち、17通が現存しています。もし500年前に宗寿さんがのこしておこうという判断をしていなかったら、いま私たちはそれらの文書を目にすることはできないわけで、ちょっとした判断の大きな影響に驚きます。