薄墨(うすずみ)の綸旨(りんじ)

突然ですが、古文書の醍醐味といえば何でしょう?ミミズのようなくずし字を読み解くこと。有名な人物の筆跡や筆の流れを堪能すること。答えはさまざまですが、「どのような紙が使われているか」も興味深い点のひとつではないでしょうか。そこで今回は、「紙」に注目しながら古文書を眺めてみましょう。

せ函南朝文書9号 後醍醐天皇綸旨
せ函南朝文書9号 「後醍醐天皇綸旨」元弘3(1333)年6月19日

上の文書の紙は白色ではなく、薄い墨色をしています。これは一度文字を書いた紙などを漉(す)き返して作った再生紙を使用しているからです。このような紙を「宿紙(しゅくし)」といいます。文書をよ~く見つめてみましょう。

2行目1文字目の「奏」の左隣や、5行目5文字目の「也」の右隣などに、墨の痕跡のようなものが見えます。これは古紙の墨の跡です。宿紙を製造するにあたり原料の古紙は、水を含ませた後に叩いて細かく切りほぐされます。おそらくその作業が足りなかったのでしょう。

この宿紙ですが、綸旨、天皇の秘書官である蔵人(くろうど)が天皇の命令を取り次ぎ、伝える際に書いた文書によく使われました。「薄墨の綸旨」という言葉がそのことを雄弁に物語っています。例にもれず、上述の文書は「後醍醐天皇綸旨」で「宿紙」が使われています。綸旨に用いる宿紙は、その神聖さや荘厳さを際立たせるために、さまざまな加工を施して墨色を濃くするようになりました。

一方で、日用の紙としても宿紙は使われていたようです。ただしこの場合、紙の品質は前述の宿紙に比べずっと粗末でした。まさに、現代人の我々がイメージするところの再生紙に近いものだったのかもしれません。

(鍜治:歴史資料課)